September 21, 2008

伴大納言絵巻の続きから出光美術館

平安時代の後期、院政期に制作されたとされる4つの絵巻物が国宝に指定されるだけの素晴らしいものであることは、その実物を観ることでド素人である私にも感じられるほどに作品そのものが私の感性を揺さぶってくるのである。

絵は言語とは異なるが意志・感情・情景などを伝達する道具のひとつであることはこれまでにも書いてきたし、音楽も音の高低や強弱、長さやリズムなどを考慮、更に楽器による音色の違いなどを組み合わせて言語・絵と共に伝達のための道具である。

芸術的感性という点で非凡なる人たちは『音』だけで、或いは『絵』だけで意志や感情の交流が可能であるようだが、私のような平凡な者にはなかなか難しいことである。

国宝は重要文化財(Important Cultural Properties)の中でも学術的・美術的・文化史的に特別優れ価値の高いものに対して文部科学大臣が指定するのであるが、勿論、文部科学大臣に国宝や重文を選定できる能力など無く、選定にあたっては博物館、美術館などの専門の学芸員や大学など研究機関におけるそれぞれの専門家が研究資料や鑑定結果をもとに検討を行い、重文や国宝の指定をするよう文化庁に提起するのであり、国としては文部科学大臣の諮問機関として文化審議会を置き、その中に文化財分科会を設けている。

重文、国宝は有形文化財として国が指定することによって保存(保護)管理責任の一翼を担い、民間での保存に限界がある場合の補助金交付や行政(法律執行上の)として行うことのできる保存(保護)管理などについて文化財保護法で定めている。

伴大納言絵巻』は国宝ではあるが出光美術館が所有するものであって、その保存・修理や公開など管理に関する第一次的義務は所有者にあり、それの国外輸出の禁止などについても文化財保護法で定められている。

出光美術館は、石油輸入販売企業である出光興産の創業者・出光佐三(いでみつ さぞう)氏が長年蒐集してきた、所謂『出光コレクション』と、その後美術館が蒐集した逸品の数々を所蔵している我が国有数の私立美術館である。

出光佐三氏は福岡県宗像市の出身で、神戸高商(現・神戸大学)卒業後、福岡県門司に出光商会を設立した時から事業家としての道を歩み、浮世絵や文人画の他、洋画ではルオーの作品蒐集などで知られている。

東京・丸の内に出光美術館があるが、北九州市門司区の門司港レトロ地区の一角に港の倉庫を模した出光美術館(門司)があり、東洋美術を中心に展示が行われている。

いずれの美術館も私は訪れたことがあるが、何万点にも及ぶ『出光コレクション』の、ほんの一部だけを見たに過ぎない。

私は未だ訪れたことがないのだが、出光興産が行う企業の社会還元のひとつとして東京に『中近東文化センター』を設け、オリエント文化の紹介の他、アナトリア考古学研究所を設立し、トルコにおける遺跡発掘など考古学研究についても積極的な支援を行っているらしい。

別に出光興産の宣伝をするつもりではないが、政党へのツマラン献金をするよりは国民に対して遥かに有益な還元(私の主観)をしている出光興産の企業姿勢は大いに褒め称えても良いと考える。

収益性が悪いとか赤字施設だとかの理由で文化・教育施設の廃止や民間への売却しか打ち出せない大阪の知事には文化が何たるか、見てくれの数量化できるものだけでなく、効果は数量化出来ずに見えなくとも心の育成に大きくはたらく文化価値について、もっともっと関心を持ってもらいたいものである。

 『出光美術館』『出光美術館(門司)』『出光コレクション』『中近東文化センター』については、当該文字をクリックすれば該当ページにリンクしている。

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