November 03, 2011

イカの塩辛造り

何日前だったか、楽天のネットショップを何気なく、つまり何かを買うという目的もなくモニター画面を見ていたら『スルメイカ』と『青森県大畑』の文字が目に入ってきた。

イカ、タコ大好き・・・もう随分前にブログでも明かしたが、昭和43年の夏に前年冬の予備調査に続いて下北半島の主に観光経済的発展の可能性について現地での調査に入ったことがあった。
pict-P1040321
既に観光資源とされているものや今後観光資源として有力視されるもの、地元民の観光に対する意識や期待の度合い、交通事情や旅館など観光客受け容れの現状、観光客の意識や動態に関する調査、町村役場での基本統計調査など、田名部町(現・むつ市)と大間町、それに脇野沢村の3ヵ所に調査拠点を置いて 1週間にわたる実地調査を学生たちによって同時進行させた。

この折の調査本部に田名部町の某寺院を借りたのだが、私の好物がイカだと知った寺のお嬢さん(当時は高校生)が特大のスルメイカ 10パイを刺身にして大皿に盛って出してくれたことがあった。 これを私一人でほぼ平らげたものだから某寺院に滞在中、私は「イカ男」と呼ばれていたのである。

随分昔の話になってしまうが、当時の東北地方は未だ『みちのく』・・・『道の奥』の感じが色濃く、東京からは北pict-下北半島概略図は札幌との空のつながりの方が強く、東北地方が置き去りにされていた感じだったのである。

強いて言えば仙台のみが発展し始めていたと言えるだろうか。 これは大阪という都会育ちの私の感覚が基準になっていたものなので、他の都市の皆さんとは感覚的に異なると思うので誤解が無いよう断っておく。

上の図は当時の下北半島についての概略であり、東京から仙台・盛岡を経て青森に至る東北本線が赤色の実線。青森から日本海側へは奥羽本線が通っていたが省いている。 図上、野辺地から田名部(むつ)、大畑に向かう国鉄(現・JR)が下北半島への唯一の鉄道路線であったのだ。

野辺地から尻屋崎が柄、大間と脇野沢を結ぶ線を斧の刃の部分と思えば下北半島は斧のような形をしていると言える。

大間崎の大間は今でこそマグロの1本釣りで有名であるが、当時は輸送や保存技術面の理由で今ほど騒がれることもなく、むつ小川原も核燃料貯蔵から開発が進められたが、当時は射撃演習地で一般人が入り込むことが禁じられていた。 

余計なことを書いているが、大畑は本州の最北駅。木造の小さな駅舎の前に小さな食堂があった。 何を食べたか覚えていないが、昭和41年か42年の12月も押し詰まった頃だった。 豪雪の冬で大阪発の特別急行『白鳥』の青森駅到着が夜中となり、雪の壁に挟まれた狭い道を駅近くの宿屋まで番頭に案内してもらったことがpict-P1040320記憶に残っている。  同じ青森であっても青森駅前あたりは凄い積雪だったのに比べ、大畑から大間へは積雪が少なく、地道は凍てつき地吹雪が舞う状況であった。 そんな大畑駅前のわずかな空き地のような所から下北バスに揺られて下風呂温泉に向かったのだった。 井上 靖が小説『海峡』を書いた長谷旅館(カクチョウ)で私は年越しをした。 井上は私が泊まった時より8年ばかり前に2泊したようだが、彼の泊まった部屋で元日を迎え、津軽海峡を隔てて北海道の恵山岬が見える彼が入浴した風呂にも浸かった。

いろいろと思い出が湧いて、話が・・・・・
とにかく『スルメイカ』と『大畑』という名前に引かれてネットで注文したのだが、届いた品物が上の写真のスルメイカ。

冷蔵宅急便で届いたイカは、目が綺麗だし足の吸盤が吸い付くほどに新鮮であったから刺身でも良いなあと思ったりしたのだが、大きさは中、或いは大の小さ目。 私の感覚ではあるけど、私は大サイズも特大サイズも知っているのでサイズ判別に大きい間違いはない。 
pict-P1040323スルメイカ寄生虫(3)
もともと塩辛を造るつもりだったし、仕入れた10パイが中サイズだったので刺身を取るほどには量が無かったので全てを塩辛にした。

イカを調理していて気になるのが写真の寄生虫。

米粒のような虫だがスルメイカの体に喰い付いているのだ。 写真のはイカの体を開いたところに喰い付いていたものだが、足に喰い付いていることもあるし、警戒色で茶色に変わった皮の中に潜り込んでいる場合もある。 
pict-P1040324スルメイカ寄生虫(2)
塩辛を造る場合、イカの体を開いてワタ(キモ)を取り出すのだが、そのワタに噛み付いている場合もある。

虫が付くほどに美味しいとも言うので嬉しい気持ちもないではない。 それに、この寄生虫はニベリニア(Nybelinia)で人体に害を与えるものでないことがハッキリしているので問題視することもないのだが、塩辛と言っても生で食べるものだけにやはり気色が悪い。

そのため毛抜きで1匹ずつ丁寧に取り除くのだが、老眼鏡をかけ続けての作業は目の奥や頭が痛くなって大弱りするのである。
pict-P1040328スルメイカ寄生虫毛抜きで取り除いたニベリニアを黒い板に置いてみると体の形や動きがよく分かる。
宿主であるスルメイカは既に死んでいるのだが、寄生しているニベリニアは宿主から離されても黒い板の上を這い回るという何とも元気な奴である。

ちょっとややこしい寄生虫にアニサキス(Anisakis)という奴がいるが、これはニベリニアよりも長く渦を巻いているので発見しやすい。 これまでの経験上、発見したのは1回きり。

スルメイカの体を切り開いた時に出てくるオスの精莢(せいきょう)を寄生虫かと見間違えることがある。 白色半透明で3cmばかりの細長いものだが、イカの精子であって、精莢嚢を切り裂くとドッと出てくる。 これも塩辛pict-P1040371には必要の無いものなので捨てている。

話が長くなったが、そうした下処理を経たイカの体・耳・足を適当な大きさに切って、イカのワタと塩を混ぜて寝かすのである。

夏場は塩をやや濃いめ。 それに対して冬場は緩めにしているが、どれだけのイカに対して、或いはワタに対して塩を何グラムと私は決めていない。 全て私の舌に任せている。 が、とにもかくにも三日目ぐらいから塩味がワタに馴染んでまろやかな味わいになってくる。

私の場合は塩だけしか用いないが、昨夜食べてみたところ、 うーーん、いつも通り、なかなかの味わい。

息子たちが美味しいと言ってくれるので新鮮な良いイカがあれば造っているのだが、10パイのイカを塩辛にしても出来上がりの量は僅か。

昔に比べるとスルメイカも高くなった。 それでも小遣いをはたいて手間暇かけて塩辛を造るのは我が酒肴のためか、それとも「美味しい」と言う言葉を聞きたいがためか。 

まあどうでもよろしい。 ウマイものをウマイと食させて頂けることの幸せ。 コレが、イイ。
  


masatukamoto at 10:03│Comments(0)

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